本記事は NVIDIA Technical Blog: Building Scalable AI on Enterprise Data with NVIDIA Nemotron RAG and Microsoft SQL Server 2025 の解説記事です。
ブログ概要(Summary)
NVIDIAはMicrosoft Ignite 2025で、SQL Server 2025とNVIDIA Nemotron RAGモデルを統合するリファレンスアーキテクチャを発表した。本ブログ記事は、エンタープライズデータ上でのRAG構築における3つの課題(パフォーマンス、デプロイ、データ主権)に対し、GPU加速エンベディング生成とコンテナ化モデルデプロイメントによる解決策を詳述している。
この記事は Zenn記事: LangGraph×Claude Sonnet 4.6でSQL統合Agentic RAGを実装する の深掘りです。Zenn記事がPythonベースのLangGraph+ChromaDB構成でSQL統合RAGを扱うのに対し、本ブログはSQL Serverのネイティブベクトル機能を活用したエンタープライズ向けアーキテクチャを提示しており、本番環境での構造化・非構造化データ統合の選択肢を提供する。
情報源
- 種別: 企業テックブログ
- URL: https://developer.nvidia.com/blog/building-scalable-ai-on-enterprise-data-with-nvidia-nemotron-rag-and-microsoft-sql-server-2025
- 組織: NVIDIA × Microsoft
- 著者: Uttara Kumar, Alexander Spiridonov, Priyanka Pandey
- 発表日: 2025年11月18日(最終更新: 2025年11月25日)
技術的背景(Technical Background)
エンタープライズ環境でのRAG構築には、以下の3つの課題がある。
- パフォーマンス: エンベディング生成がCPUベースの場合、大量ドキュメントの処理がボトルネックになる
- デプロイメント: AIモデルの依存関係管理とインフラ構築の複雑さ
- データ主権: 外部APIへのデータ送信を避けたいコンプライアンス要件
NVIDIAとMicrosoftは、SQL Server 2025のネイティブベクトルデータ型とNVIDIA NIMマイクロサービスの組み合わせにより、これらの課題を包括的に解決するリファレンスアーキテクチャを提案している。
実装アーキテクチャ(Architecture)
3つのコアコンポーネント
1. SQL Server 2025 — AI対応データベース
SQL Server 2025では、以下のAI関連機能がネイティブに追加されている。
- ネイティブベクトルデータ型: エンベディングを構造化データと同一テーブルに格納可能
- ベクトル距離検索関数: セマンティック類似度検索をT-SQLで実行
- CREATE EXTERNAL MODEL: 外部AIサービスをDBに登録
- AI_GENERATE_EMBEDDINGS: T-SQL関数でREST API経由のリアルタイムエンベディング生成
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-- SQL Server 2025: エンベディング付きテーブル作成
CREATE TABLE ProductDescriptionEmbeddings (
ProductID INT PRIMARY KEY,
Description NVARCHAR(MAX),
Embedding VECTOR(1024) -- ネイティブベクトル型
);
-- NIMマイクロサービスを外部モデルとして登録
CREATE EXTERNAL MODEL NemotronEmbed
WITH (
LOCATION = 'https://nim-endpoint:8000/v1/embeddings',
API_FORMAT = 'OpenAI'
);
-- T-SQL内でエンベディング生成
UPDATE ProductDescriptionEmbeddings
SET Embedding = AI_GENERATE_EMBEDDINGS(
Description,
MODEL = NemotronEmbed
);
-- セマンティック検索
SELECT TOP 5
ProductID,
Description,
VECTOR_DISTANCE('cosine', Embedding, @query_embedding) AS distance
FROM ProductDescriptionEmbeddings
ORDER BY distance ASC;
2. NVIDIA NIMマイクロサービス — GPU加速推論エンジン
NIMマイクロサービスは、AIモデルのデプロイを簡素化するコンテナベースのサービスである。
- 使用モデル: Llama Nemotron Embed 1B v2(多言語対応、長コンテキストサポート)
- API: OpenAI互換エンドポイント
- デプロイ先: Azure Container Apps(クラウド)またはAzure Local + NVIDIA GPU(オンプレミス)
NIMの特徴として、ブログは以下を述べている。
- コンテナ化により依存関係管理が不要
- サーバーレスGPUスケーリング(Azure Container Apps使用時はゼロスケール対応)
- 秒単位課金による最適化
- 複数NIMバージョンの並列運用が可能
3. 通信ブリッジ
SQL ServerとNIMサービス間の通信は以下の仕様に基づく。
- 標準HTTPS POSTリクエスト
- TLS証明書ベースのエンドツーエンド暗号化
- OpenAI互換プロトコルによるシームレスな統合
デプロイメントパターン
クラウド構成(Azure Container Apps):
- サーバーレスNVIDIA GPU上でNIMを実行
- 自動HTTPスケーリング(ゼロスケール対応)
- 秒単位課金
- 複数NIMバージョンの並列運用
オンプレミス構成(Azure Local):
- Azure管理をローカルインフラに拡張
- Windows/Linux混在環境をサポート
- クラウドと同じコンテナ化NIMアプローチ
- SQL Server 2025 RC 17.0.950.3で検証済み
パフォーマンス最適化(Performance)
GPU加速のメリット
ブログによると、エンベディング生成をNVIDIA GPUにオフロードすることで、CPUベースの処理と比較してスループットが大幅に向上するとされている。
Llama Nemotron Embed 1B v2の特徴:
- 多言語・クロスリンガルQA検索に最適化
- 長コンテキストサポート(具体的なトークン長はブログに未記載)
- Nemotron RAGデータセットでファインチューニング済み
データ主権の確保
ブログが強調する重要なポイントは、データがSQL Server内に留まりモデルもローカルホスト可能なため、外部へのデータ送信が不要であるという点である。これにより以下が実現される。
- 金融・医療・政府機関等のコンプライアンス要件を満たす
- GDPR等のデータ保護規制への対応
- オンプレミスデプロイでの完全なデータ主権
運用での学び(Production Lessons)
Zenn記事との比較
Zenn記事のアーキテクチャ(LangGraph + ChromaDB + SQLite/PostgreSQL)と、NVIDIAリファレンスアーキテクチャ(SQL Server 2025 + NIM)の比較:
| 項目 | Zenn記事 | NVIDIA アーキテクチャ |
|---|---|---|
| ベクトルDB | ChromaDB(外部) | SQL Server内蔵 |
| SQL DB | SQLite/PostgreSQL | SQL Server 2025 |
| エンベディング | HuggingFace(CPU) | NIM + GPU加速 |
| LLM | Claude Sonnet 4.6 | 任意(NIM経由) |
| データ統合 | LangGraphで統合 | SQL Server内で統合 |
| 対象 | 中小規模・PoCフェーズ | エンタープライズ本番 |
NVIDIAアーキテクチャの利点:
- ベクトルデータと構造化データが同一DBに格納されるため、JOINやトランザクション管理が容易
- T-SQL内でエンベディング生成・検索が完結するため、アプリケーション側のコードが簡潔になる
- GPUオフロードにより大量ドキュメントの処理が高速化
Zenn記事アプローチの利点:
- 導入コストが低い(OSS中心)
- LangGraphによる柔軟なルーティングロジック
- Claude Sonnet 4.6のstructured outputによる型安全なインターフェース
セキュリティ
ブログは以下のセキュリティ特性を述べている。
- NIMマイクロサービスはNVIDIAエンタープライズサポート付き
- SQL ServerとNIM間のTLS暗号化通信
- ローカルモデルホスティングによる外部データ送信の排除
学術研究との関連(Academic Connection)
本ブログで提示されているアーキテクチャは、以下の学術研究と関連がある。
- Lewis et al. (2020) RAG: ベクトル検索ベースのRAGの基盤。NVIDIAのアプローチはこれをSQL Server内で実現している
- HybridRAG (Sarmah et al., 2025): 構造化・非構造化データの統合検索。SQL Server 2025のネイティブベクトル型は、この統合をDB層で実現するインフラ面の解決策
- CHESS (Talaei et al., 2024): Text-to-SQLパイプライン。SQL Serverの
AI_GENERATE_EMBEDDINGS関数は、スキーマリンキングのためのエンベディング計算を簡素化する
まとめと実践への示唆
NVIDIAとMicrosoftのリファレンスアーキテクチャは、「構造化データ(SQL)とベクトル検索を同一DB内で統合する」というエンタープライズ向けの解決策を提供している。SQL Server 2025のネイティブベクトルデータ型とNVIDIA NIMによるGPU加速の組み合わせは、データ主権を重視する企業にとって検討に値するアーキテクチャである。
一方で、このアプローチはSQL Server + NVIDIAインフラへの依存が前提となるため、OSS中心の技術スタックを採用するチームには、Zenn記事のLangGraph + ChromaDBアプローチの方が適している場合がある。システムの規模、コンプライアンス要件、インフラ予算に応じて選択するのが現実的である。
参考文献
- Blog URL: https://developer.nvidia.com/blog/building-scalable-ai-on-enterprise-data-with-nvidia-nemotron-rag-and-microsoft-sql-server-2025
- NVIDIA NIM: https://developer.nvidia.com/nim
- SQL Server 2025: https://learn.microsoft.com/sql/sql-server/
- GitHub Examples: https://github.com/NVIDIA/GenerativeAIExamples
- Related Zenn article: https://zenn.dev/0h_n0/articles/58dc3076d2ffba