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✍️ NVIDIA解説: NeMo Agent Toolkitで構築するテスト駆動コーディングエージェント — LangGraph×推論モデル×サンドボックス実行

ブログ概要(Summary)

本記事は NVIDIA Developer Blog: Improve AI Code Generation Using NVIDIA NeMo Agent Toolkit の解説記事です。

NVIDIAのNeMo Agent Toolkit(AgentIQ)は、テスト駆動のコーディングエージェントをLangGraphベースで構築するためのフレームワークである。コード生成、テスト実行、デバッグ、反復的修正の4ノード構成で、DeepSeek-R1の推論能力を活用したエラー分析と、サンドボックス環境でのテスト実行を組み合わせている。

この記事は Zenn記事: Claude API×LangGraphで自律コーディングエージェントを構築する実装ガイド の深掘りです。

情報源

技術的背景(Technical Background)

LLMによるコード生成は、単純なプロンプト→コード出力では信頼性に限界がある。NVIDIAはこの課題に対し、テスト時間計算スケーリング(test-time compute scaling)の概念を適用している。これは、推論時に計算リソースを追加投入することで出力品質を向上させるアプローチであり、コーディングタスクでは「テスト実行による検証→修正→再実行」のサイクルとして実現される。

このアプローチはZenn記事で紹介したLangGraphの自律ループ(generate→execute→test→fix→generate)と同じ設計思想に基づいている。NVIDIAのフレームワークは、この設計を設定ファイル駆動で構築可能にしている点が特徴的である。

実装アーキテクチャ(Architecture)

マルチモデル構成

NeMo Agent Toolkitの特徴的な設計は、タスクの性質に応じて異なるLLMを使い分けるマルチモデル構成である。ブログでは以下の3モデル構成が紹介されている:

役割モデル用途
コード生成Qwen 2.5 Coder 32Bコード生成に特化したモデル
推論・デバッグDeepSeek-R1エラー分析・修正方針策定
オーケストレーションMeta Llama 3.3 70BSupervisorエージェント

Zenn記事のモデル戦略(plan: Sonnet、generate: Sonnet、fix: Sonnet)と比較すると、NVIDIAのアプローチは専門モデルの分離をより徹底している。コード生成にはコード特化モデルを、デバッグには推論特化モデルを使うことで、各フェーズの品質を最大化する設計となっている。

LangGraph 4ノードワークフロー

ブログで紹介されているワークフローは4ノード構成である:

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START → コード生成 → テスト実行 → [成功?] → END
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                              デバッグ(推論モデル)
                                    ↓
                              コード修正 → テスト実行(ループ)

最大3回のイテレーション(設定で変更可能)でテスト通過を目指す設計であり、Zenn記事のmax_retriesパラメータと同等の制御機構を持つ。

設定ファイル駆動の設計

NeMo Agent Toolkitの特徴は、ワークフロー全体を設定ファイル(YAML)で定義できる点にある。ブログでは以下のような設定例が紹介されている:

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functions:
  code_gen_tool:
    debug_llm: reasoning_llm
    code_llm: code_generation_llm
    max_iterations: 3

llms:
  reasoning_llm: deepseek-ai/deepseek-r1
  code_generation_llm: qwen/qwen2.5-coder-32b-instruct
  general_llm: meta/llama-3.3-70b-instruct

workflow:
  _type: react_agent
  tool_names: [code_gen_tool]

この設定駆動アプローチにより、コードを書き換えることなくモデルの切り替え、イテレーション数の変更、ワークフロー構造の変更が可能になる。Zenn記事のPythonコードベースのアプローチと比較すると、運用時の柔軟性が高い反面、カスタムロジックの追加にはフレームワークの制約がある。

実装アーキテクチャの詳細

テスト駆動コード生成フロー

ブログでは「ヒストグラム中の最大矩形」問題を例に、エージェントの動作フローが紹介されている:

  1. 初期生成: Qwen 2.5 Coder 32Bがスタックベースのアルゴリズムを生成
  2. テスト実行: サンドボックス環境でユニットテストを実行(1件が空配列のエッジケースで失敗)
  3. デバッグ分析: DeepSeek-R1がテスト結果を分析し、空リストチェックの欠落を特定
  4. コード修正: 空リストチェックを追加したコードを再生成
  5. 再テスト: 全テスト通過を確認

この5ステップは、Zenn記事のplan→generate→execute→test→fix→generateサイクルと本質的に同じ構造である。

Observability統合

NeMo Agent Toolkitは、PhoenixおよびOpenTelemetry Collectorとの統合による可観測性を提供している。Zenn記事で紹介したLangSmith統合と同様に、以下の情報をトレースできる:

  • 各ノードの実行時間
  • LLM呼び出しの入出力
  • トークン使用量
  • エラーログ

エコシステム互換性

ブログによれば、NeMo Agent Toolkitは以下のフレームワークと互換性がある:

  • LangGraph: 状態機械ベースのワークフロー
  • CrewAI: マルチエージェント協調
  • ReACTエージェント: 推論+行動パターン

この互換性により、Zenn記事のLangGraph実装からNeMo Agent Toolkitへの移行が容易である。

パフォーマンス最適化(Performance)

ブログでは以下の最適化機能が紹介されている:

  • ワークフロープロファイラ: ボトルネックの特定と最適化支援
  • 並列ツール呼び出し: 独立したツール呼び出しの並列実行
  • NVIDIA Dynamo統合: GPU推論の最適化
  • NIMマイクロサービス: モデルのサービング効率化

特にNIMマイクロサービスによるモデルサービングは、セルフホスティング環境でのレイテンシ最適化に有効であるとブログでは述べられている。

運用での学び(Production Lessons)

ブログから読み取れる運用上の知見:

  1. 推論モデルの活用: エラー分析にDeepSeek-R1のような推論特化モデルを使うことで、デバッグの質が向上する。単なるコード生成モデルでは、エラーの根本原因分析が不十分になりやすい
  2. 設定駆動の運用: YAML設定によるワークフロー管理は、モデル更新やパラメータ調整をデプロイなしで行えるため運用負荷が低い
  3. サンドボックスの重要性: コード実行はサンドボックス環境で行うことが必須。ブログでも、生成コードの実行にはセキュアな環境が前提となっている

学術研究との関連(Academic Connection)

NeMo Agent Toolkitのアプローチは、以下の学術研究と関連している:

  • テスト時間計算スケーリング: OpenAI o1やDeepSeek-R1で実証された「推論時に計算を追加投入して品質を向上させる」アプローチの実装例
  • On the Design and Analysis of LLM-Based Algorithms (2407.13168): 外部検証ツール(テスト実行)が自己修正よりも有効であるという理論的知見を、実践的なフレームワークとして実現
  • SWE-bench関連: ブログではNemotron-CORTEXAがSWE-bench Verified 68.2%を達成したことが言及されており、NeMo Agent Toolkitのコーディングエージェントとしての有効性を間接的に示している

まとめと実践への示唆

NVIDIAのNeMo Agent Toolkitは、Zenn記事で紹介したLangGraphベースの自律コーディングエージェントと同じ設計思想を、設定駆動のフレームワークとして提供している。マルチモデル構成(生成・推論・オーケストレーション)の分離、テスト駆動の反復修正ループ、可観測性の統合が特徴的であり、本番環境での運用を見据えた設計となっている。

Zenn記事のClaude API + LangGraphアプローチと比較した際の主な違いは、NVIDIAのアプローチがオープンソースモデル(Qwen、DeepSeek、Llama)をセルフホスティングする前提である点と、設定ファイルによるノーコード的なワークフロー変更を重視している点である。

参考文献

この投稿は CC BY 4.0 でライセンスされています。

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論文解説: Agentless — エージェントレス設計でLLMベースのソフトウェアエンジニアリングを再考する