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✍️ Anthropic解説: Building Effective Agents — 5つの構成パターンとエージェント設計の実践原則

本記事は Building Effective Agents (Anthropic Research) の解説記事です。

ブログ概要(Summary)

Anthropicが公開した本ガイドは、多数のチームとの協業経験に基づき、LLMエージェント設計の実践的な原則とパターンを体系化したものである。著者らは、エージェントシステムの構成要素を「拡張されたLLM(Augmented LLM)」と定義し、5つのワークフローパターン(プロンプトチェーン、ルーティング、並列化、オーケストレータ-ワーカー、評価者-最適化者)を紹介している。コーディングエージェントが特に効果的なユースケースとして挙げられており、コードの検証可能性が反復的改善を可能にすると述べられている。

この記事は Zenn記事: Claude Sonnet 4.6の1Mコンテキストで大規模コードレビューエージェントを構築する の深掘りです。

情報源

技術的背景(Technical Background)

LLMエージェントの開発において、多くのチームが複雑なフレームワークやアーキテクチャを採用する傾向がある。しかし、Anthropicが多数の実運用プロジェクトを支援した経験からは、「最も成功した実装は、シンプルで構成可能なパターンを使用している」ことが明らかになっている。

このガイドが書かれた背景には、エージェントフレームワーク(LangChain、LlamaIndex等)の急速な普及と、それに伴う過度な抽象化の問題がある。フレームワークの内部動作を理解せずに使用することで、デバッグが困難になり、予期しない動作が発生するケースが報告されている。Anthropicは、API直接利用を出発点とし、必要に応じて段階的に複雑さを追加するアプローチを推奨している。

実装アーキテクチャ(Architecture)

基本構成要素: 拡張されたLLM(Augmented LLM)

すべてのエージェントシステムの基本構成要素は、検索(Retrieval)、ツール(Tools)、メモリ(Memory)で拡張されたLLMである。Anthropicはこれを「Augmented LLM」と呼んでいる。

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│      Augmented LLM          │
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│  │Retrieval │ │  Tools  │  │
│  └─────────┘ └─────────┘  │
│  ┌─────────┐ ┌─────────┐  │
│  │ Memory  │ │   LLM   │  │
│  └─────────┘ └─────────┘  │
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Model Context Protocol(MCP)を使用することで、サードパーティツールとの統合を標準化された方法で実現できる。

5つのワークフローパターン

パターン1: プロンプトチェーン(Prompt Chaining)

タスクを逐次的なステップに分解し、各LLM呼び出しが前のステップの出力を処理する。レイテンシと精度のトレードオフが明確なパターンである。

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def prompt_chain_review(code: str) -> dict:
    """プロンプトチェーンによるコードレビュー

    ステップ1: コード構造の分析
    ステップ2: 問題の検出
    ステップ3: 改善提案の生成
    """
    # Step 1: 構造分析
    structure = llm_call(
        "このコードの構造を分析してください: " + code
    )

    # Step 2: 問題検出(構造分析結果を利用)
    issues = llm_call(
        f"以下の構造分析に基づき、問題を検出してください:\n"
        f"構造: {structure}\n"
        f"コード: {code}"
    )

    # Step 3: 改善提案(問題検出結果を利用)
    suggestions = llm_call(
        f"以下の問題に対する改善提案を生成してください:\n"
        f"問題: {issues}"
    )

    return {"structure": structure, "issues": issues, "suggestions": suggestions}

パターン2: ルーティング(Routing)

入力を分類し、専門化されたハンドラに振り分ける。レビュー観点(セキュリティ、パフォーマンス、設計等)ごとに特化したプロンプトを使い分ける場合に有効である。

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def route_review(code_diff: str) -> str:
    """レビュー観点に基づくルーティング"""
    # 入力を分類
    category = llm_call(
        "このコード変更のカテゴリを判定してください: "
        "security / performance / design / style\n"
        f"Diff: {code_diff}"
    )

    # カテゴリ別の専門プロンプトでレビュー
    prompts = {
        "security": "セキュリティ観点で詳細にレビューしてください...",
        "performance": "パフォーマンス観点で詳細にレビューしてください...",
        "design": "設計観点で詳細にレビューしてください...",
        "style": "コーディングスタイル観点でレビューしてください...",
    }

    return llm_call(prompts.get(category, prompts["design"]) + code_diff)

パターン3: 並列化(Parallelization)

複数のLLM呼び出しを同時に実行する。2つのバリアントがある。

  • セクショニング: 独立したサブタスクを並列実行(例: 複数ファイルの独立レビュー)
  • 投票: 同一タスクを複数回実行し、多様な出力を得る(例: 複数の観点でのレビュー)

パターン4: オーケストレータ-ワーカー(Orchestrator-Workers)

中央のLLMがタスクを動的に分解し、ワーカーLLMに委譲する。並列化との違いは、「サブタスクが事前定義されず、オーケストレータが入力に基づいて動的に決定する」点である。

Zenn記事のコードレビューエージェントは、このパターンの応用と見なすことができる。レビューエージェントがリポジトリ全体を分析し、問題箇所を特定した上で、各問題の詳細分析をワーカー(追加のLLM呼び出し)に委譲する設計が可能である。

パターン5: 評価者-最適化者(Evaluator-Optimizer)

一方のLLMが応答を生成し、もう一方のLLMが反復的にフィードバックを提供するループ構造。「LLMの応答が人間のフィードバックにより明確に改善できる場合」に効果的と述べられている。

コードレビューでは、初回レビュー結果に対して別のLLMが「このレビューは具体的か」「行動可能な提案になっているか」を評価し、不十分な場合に再生成を要求する、といった使い方ができる。

ワークフロー vs エージェント

Anthropicは以下の使い分けを推奨している。

特性ワークフローエージェント
フロー制御事前定義されたコードパスLLMが動的に決定
適用場面手順が明確なタスクオープンエンドの問題
コスト予測可能変動(ターン数依存)
エラー伝播限定的累積リスクあり
適切な例CI/CDパイプラインレビューリポジトリ全体の探索的レビュー

3つの設計原則

  1. シンプルさ(Simplicity): 最小限のコンポーネントで構成する。フレームワークの抽象化に頼る前にAPI直接利用を検討する
  2. 透明性(Transparency): 計画ステップを明示的に表示する。エージェントの意思決定過程をユーザーに見せる
  3. 強力なACI(Agent-Computer Interface): ツール定義にはプロンプトエンジニアリングと同等の注意を払う

パフォーマンス最適化(Performance)

ツール設計のベストプラクティス

Anthropicが強調しているのは、「ツール定義はプロンプト本体と同等のエンジニアリング投資が必要」という点である。具体的な推奨事項を以下に示す。

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# 推奨: 十分な説明を含むツール定義
GOOD_TOOL = {
    "name": "search_code",
    "description": (
        "リポジトリ内のソースコードを正規表現パターンで検索します。"
        "検索対象はファイル内容のみで、ファイル名検索にはlist_filesを使用してください。"
        "大文字小文字を区別します。"
    ),
    "parameters": {
        "pattern": {
            "type": "string",
            "description": "検索する正規表現パターン(例: 'def\\s+\\w+\\('",
        },
        "file_glob": {
            "type": "string",
            "description": "検索対象ファイルのglobパターン(例: '**/*.py'",
        },
    },
}

# 非推奨: 説明が不十分なツール定義
BAD_TOOL = {
    "name": "search",
    "description": "コードを検索",
    "parameters": {
        "q": {"type": "string", "description": "クエリ"},
    },
}

ポカヨケ原則(Poka-yoke): ツール設計においてミスを防止する仕組みを組み込む。例えば、ファイルパスのバリデーション、危険な操作の確認プロンプト、パラメータのデフォルト値設定などである。

コーディングエージェントの成功パターン

Anthropicは、コーディングエージェントが特に効果的なユースケースであると述べている。その理由は以下の2点である。

  1. 検証可能性: コードはテスト実行により客観的に検証できるため、エージェントの反復的改善ループが機能しやすい
  2. 明確な成功指標: テストの合格/不合格が明確な成功基準を提供する

これはZenn記事のコードレビューエージェントの設計方針と直接的に関連する。レビュー結果をJSON構造化出力で返し、その後のパイプライン(GitHub PRコメント投稿、CI統合)で自動処理する設計は、Anthropicの推奨するパターンに合致している。

運用での学び(Production Lessons)

フレームワーク利用の注意点

Anthropicは、フレームワーク(LangChain等)の使用を否定していないが、「内部動作を理解していない状態での利用」を強く警告している。具体的な問題として以下が挙げられている。

  • フレームワークの抽象化が過度にプロンプトを変換し、意図しない動作を引き起こす
  • デバッグ時にフレームワーク内部のLLM呼び出しを追跡できない
  • フレームワークのバージョンアップにより動作が変化する

段階的複雑さの追加

「単純なプロンプトから始め、包括的な評価で最適化し、単純なソリューションでは不十分な場合にのみマルチステップのエージェントシステムを追加する」という原則が繰り返し強調されている。

エラー管理

エージェントの各ターンでエラーが累積するリスクがあるため、以下の対策が推奨されている。

  • 各ステップでの入力/出力の検証
  • 人間介入ポイント(Human-in-the-Loop)の設計
  • 失敗時のフォールバック戦略

学術研究との関連(Academic Connection)

本ガイドで紹介されているパターンは、以下の学術研究に基づいている。

  • ReAct (arXiv:2210.03629): 推論と行動を交互に行うエージェントパターン。Anthropicの「エージェント」概念はReActの実践的な拡張と位置づけられる
  • Tree of Thoughts (arXiv:2305.10601): 評価者-最適化者パターンの学術的基盤。複数の推論パスを評価・選択する手法
  • Toolformer (arXiv:2302.04761): LLMのツール使用の学術的基盤。Anthropicの「ACI設計」はこの研究のプロダクション適用

まとめと実践への示唆

Anthropicの「Building Effective Agents」は、LLMエージェント設計の実践的な指針を提供している。核心的なメッセージは「シンプルさが最も重要」であり、複雑なフレームワークに頼る前にAPI直接利用で十分なケースが多いということである。

Zenn記事のコードレビューエージェントの設計は、以下の点でAnthropicの推奨に合致している。

  • API直接利用: Anthropic Python SDKを直接使用し、フレームワークの抽象化を避けている
  • 構造化出力: JSON形式でレビュー結果を返し、後続処理との統合を容易にしている
  • 段階的な複雑さ: まず1Mコンテキスト一括投入でレビューし、必要に応じてeffortレベルやコンテキスト量を調整する設計

一方、今後の改善として、ルーティングパターン(レビュー観点ごとの専門化)や評価者-最適化者パターン(レビュー品質の自己評価ループ)の導入が考えられる。

参考文献

この投稿は CC BY 4.0 でライセンスされています。